DSCR1.34に安心していた私が、ポートフォリオ全体で見るようになった転機|返済余力のリアル
満室DSCR1.34で安心していたが、金利が4%に上がり稼働が落ちれば1.06まで沈む。1棟の数字だけ見て安心するのをやめ、戸建を含めたポートフォリオ全体の返済余力で見るようになった転機を、自分の物件の実数字で書きます。
2棟目のアパートを買って、運用が回り始めてからしばらくして、私はようやく「DSCR」という言葉を本当の意味で意識するようになった。
DSCR(Debt Service Coverage Ratio=債務返済カバー率)は、ざっくり言えば「その物件が生む純収益で、年間のローン返済を何倍カバーできるか」を表す数字だ。計算式はシンプルで、NOI(営業純利益)÷ 年間元利返済額。1.0なら収支トントン、1.2なら返済額の2割の余裕がある、という見方をする。
買う前は、正直この数字を真剣に見ていなかった。表面利回り10%、満室家賃830万円、キャッシュフローも回る。そのくらいの感覚で「いける」と判断していた。DSCRを実際に手元の数字で計算して、しかもそれを「1棟単位ではなくポートフォリオ全体で見るべきだ」と腹落ちしたのは、買ったあとだった。今日はその転機を、自分の物件の実数字で書いておきたい。
まず私のアパート単体のDSCRを出してみる
材料は、別記事「築古木造アパート利回り10%って本当に儲かる?」で実額公開している数字をそのまま使う。
- 満室時年間家賃:約830万円(表面利回り10%)
- 経費:年約160万円(家賃の約2割)
- 空室損失:年約58万円(年間平均稼働率93%)
- NOI(営業純利益):約612万円
- 年間元利返済額:約458万円(借入8,500万円・金利2.5%・25年)
ここからDSCRを出すと、
DSCR = NOI 612万円 ÷ 年間返済 458万円 = 約1.34
満室想定で1.34。返済額に対して3割強の余裕がある状態だ。数字だけ見れば「健全」の部類に入る。金融機関が新規融資の審査でDSCRを見るとき、求めてくる水準は1.1〜1.3あたりが目安とされることが多いので、1.34はその上限をわずかに超えている。
買ったあとにこれを計算して、最初は「思ったよりちゃんと余裕あるじゃないか」と少し安心した。問題は、この1.34が満室・現状金利という、いちばん条件のいい瞬間の数字だったということだ。
1.34の「余裕」は、ストレスをかけると驚くほど薄くなる
DSCRを真剣に見るようになったきっかけは、この1.34という数字に、自分でストレスをかけてみたことだった。返済前の純収益(NOI)は固定ではない。金利は上がるし、空室は増える。そこを動かすとDSCRがどう沈むか、自分で試算してみた。
以下はあくまで私の試算(シミュレーション)であって、実際にこの金利になったわけでも、この稼働率に落ちたわけでもない。ただ「起こりうる範囲」として手を動かしてみた数字だ。
| シナリオ | 年間返済 | NOI | DSCR |
|---|---|---|---|
| 現状(金利2.5%・稼働93%) | 458万円 | 612万円 | 1.34 |
| 金利が3.5%に上昇 | 約511万円 | 612万円 | 1.20 |
| 金利が4.0%に上昇 | 約538万円 | 612万円 | 1.14 |
| 稼働が88%に悪化(金利2.5%) | 458万円 | 約570万円 | 1.24 |
| 金利4.0%+稼働88%が重なる | 約538万円 | 約570万円 | 1.06 |
私の借入は2.5%の変動金利だ。25年の返済期間の間に、金利局面は確実に何度か変わる。金利が4%まで上がるシナリオは、25年というスパンで見れば決して極端な仮定ではない。そのとき、年間返済は458万円から約538万円へ、月にして約7万円増える。これだけでDSCRは1.34から1.14まで落ちる。
そこに空室がもう少し増える局面が重なったら——金利4%・稼働88%が同時に来たら、DSCRは1.06。返済額に対して6%しか余裕がない。満室で1.34あったはずの物件が、二つのストレスが重なるだけで「ほぼトントン」まで沈む。これを表で目の当たりにしたとき、表面利回り10%という入口の数字が、いかに楽観的な一瞬を切り取ったものだったかが分かった。
返済期間そのものがDSCRを左右する話は、「築13年の木造アパートに25年融資はなぜ出たか」に書いた。もしこの物件が25年でなく15年ローンだったら、年間返済は680万円。NOI612万円を上回り、DSCRは0.9——満室でも返済が純収益を超える。融資期間が出たからこそDSCRが1を超えていたわけで、その土台の上に金利・空室のストレスが乗る、という二段構えで見る必要があった。
太陽光収入は、あえてDSCRに入れない
私のアパートには太陽光が乗っていて、年間約100万円の売電収入がある。これをNOIに足せば、(612+100)÷458でDSCR1.55まで跳ね上がる。
でも私は、返済余力を見るときの太陽光は、あえて計算から外している。理由は「太陽光発電付きアパート投資のリアル」に書いたとおりで、売電収入は入金タイミングが読みにくいうえ、FIT(固定価格買取制度)の買取期間が築13年で買った物件だともう9年を切っている。いつ止まってもおかしくない上振れ分を、返済をカバーする本体の数字に組み込むと、判断を誤る。
だから私のなかでは、「家賃ベースのDSCR1.34(ストレス時は1.1前後)が物件の素の体力」で、「太陽光込みの1.55はおまけの余裕」という二層で管理している。理屈っぽく聞こえるかもしれないが、これは買って運用してみて初めて腹落ちした感覚だ。最初は太陽光込みの数字でCFを眺めて「月21万円も残る」と気分よくなっていた。素の返済余力で見る癖をつけたのは、ストレス試算をしてからだった。
1棟の数字で安心しない。ポートフォリオ全体で見る
ここが今日いちばん書きたかった転機だ。
アパート単体でDSCR1.34、ストレスをかければ1.06まで沈む——この数字を一人で眺めていると、正直けっこう不安になる。月7万円返済が増えるかもしれない、空室がもう一段増えるかもしれない、と一棟の損益計算書だけを睨んでいると、視野がその一棟に固定されてしまう。
転機になったのは、「自分が持っているのはこのアパート1棟ではない」と気づいたことだった。私はその前に、1棟目として地方の戸建を450万円で現金に近い形で買っている。融資は信金で物件価格の半額弱、残りは自己資金。借入が極端に小さいので、戸建の月々の返済はごくわずかだ。家賃から返済を引いた手残りは薄いが、返済というプレッシャーがほとんどない。つまり戸建単体で見れば、DSCRはアパートよりずっと高い。返済負担が軽い物件は、ポートフォリオ全体の返済余力の「緩衝材」になる。
加えて、アパートの融資を引いたときに積んだ自己資金500万円とは別に、運転資金として家賃数ヶ月分を手元に残している。DSCRが1.06まで沈む局面が来ても、それは「その年の手残りがほぼゼロになる」という話であって、即破綻ではない。手元のバッファと、返済の軽い戸建のキャッシュを合わせて見れば、1棟のDSCRが薄くなっても全体としては耐えられる。
この「1棟のDSCRではなく、保有物件と手元現金を合わせた全体の返済余力で見る」という視点に切り替えてから、物件単体の数字に一喜一憂しなくなった。逆に言えば、戸建のような返済の軽い物件を1棟挟んでいなかったら、アパートのDSCR1.06は本当に怖い数字だったと思う。ポートフォリオを組むというのは、利回りを足し算することではなく、こういう返済余力の分散をつくることなんだと、後から理解した。
これから物件を増やすときに、自分が使う基準
この転機を経て、3棟目以降を考えるときに自分が見る基準は変わった。
- 単体のDSCRは満室値ではなく、金利+1.5%・稼働88%のストレス値で見る。私の場合、ストレス後でも1.1を割らないかをまず確認する。
- 太陽光や一時的な収入は本体の返済余力に入れない。素の家賃ベースで返済が回ることを最低ラインにする。
- 新しい1棟を足したあとの、ポートフォリオ全体のDSCRを試算する。借入の重い物件ばかり重ねると、全体の緩衝材がなくなる。
- 手元現金のバッファを、DSCRが1.0近辺に沈む年でも回せる水準で保つ。
この手残りを内部留保に積んで次の自己資金をつくる流れは「不動産投資のキャッシュフローを積み上げる戦略」に書いたが、その積み上げが成り立つ大前提も、結局はDSCRに余裕がある——返済比率を抑えた長期融資を引けている——ことだった。
DSCRは、買う前は「審査で銀行が見る指標」くらいの認識でしかなかった。買ったあとに自分で計算して、ストレスをかけて、ポートフォリオ全体で眺めて初めて、「これは自分が生き残るために見る数字だ」と分かった。表面利回りが入口の数字なら、ストレス後のポートフォリオDSCRは、出口まで生き残れるかを測る数字だと思っている。
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副業禁止のサラリーマン大家 / 法人スキーム実践中
30代の会社員。築古戸建で個人購入 → 妻名義法人で2棟目を取得。 法人融資で3棟分契約解除という授業料を払った経験から、 融資・節税・物件管理の「数字と戦略」をリアルに発信しています。
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